ジョージクレバリー、ロシアンカーフの革小物

George Cleverley

約200年もの間海底に眠っていた革、ロシアンカーフ。この貴重な革を扱うメーカーとして、ジョージクレバリー (George Cleverley) を外すことはできないでしょう。この記事では、ロシアンカーフのストーリーや手持ちの小物について、ジョージクレバリーで直接聞いた話を含めて紹介します。

ロシアンカーフとは?

ロシアンカーフとは、一般に帝政ロシア時代にロシアで製造され、菱形の模様とバーチ(白樺)オイルからなる独特の匂いを特徴とする革の呼称です。現在ではもっぱら、1786年に沈没した船(メッタ・カタリーナ号)から1973年にサルベージされた革を指します(ジェイエムウエストンで使われているロシアンカーフとは無関係です)。当時の製法はロシア革命の折に消失してしまい、完全に同じものを製造するのは不可能とされています。

ジョージクレバリーで購入時にもらえる証明書
これと類似の外観だったのでは、とのこと

メッタ・カタリーナ号は、ロシアのサンクトペテルブルグから地中海に向かう途中、イギリスのプリマス沖で沈没しましたが、約200年後の1973年に、British Sub-Aqua clubに所属するダイバーが船の名が刻まれた号鐘を発見したことがきっかけとなり、沈没船の調査が実施されました。ロシアンカーフはその過程で発見されたものです。

この背景には、プリマス沖の所有権を有しているチャールズ皇太子が調査を後押ししたという幸運もあった模様。例えば、チャールズ皇太子は調査隊にロシアンカーフの売上げを調査費用に充てることを認めるなどの金銭的な援助を行ったそうです。

幸い、革は波の動きがない海底30メートルで泥に覆われ大気から遮断された状態で保存されていたため、使用に耐えうる状態のものも見つかり、現在まで流通するに至っています。ジョージクレバリーが初期にロシアンカーフの買付けを始めたという経緯もあり、同店が優先的に仕入れることができるようです。

ロシアンカーフのビスポークサンプル

もっとも、現在はチャールズ皇太子から回収許可を受けたダイバーが健康上の問題から回収作業をやめてしまったことや、未探索のエリアに立ち入るのにはかなりの危険が伴うこともあり、新しいものは手に入らないそうです。ジョージ・グラスゴー氏の話では、海底には全体の30%程度が回収されずに残っているのではないか、とのこと。

こちらの本は、調査団のメンバーであるIan Skelton氏がメッタ・カタリーナ号の歴史から引き揚げ作業の詳細についてまとめたものです。クレバリーの店舗に置いてあり、当時はてっきり絶版になっていたものと思っていた(クレバリーではそう聞いていた)のですが、今回この記事をまとめるにあたり調べてみると普通に新品で買えました(The Great English Outdoorsという団体のオンラインショップで取扱いあり)。

この本によれば、ロシアンカーフは、チャールズ皇太子からロシアンカーフの独占購入権を付与された革製品職人のRobin Snelson氏によるトリートメントを受けたことにより、その姿を取り戻したそうです(そのレシピの詳細は企業秘密)。ジョージ・クレバリー氏とジョン・カネーラ氏がこれを買い付けたのは、引き揚げから10年以上経過した1986年のこと。

こちらの動画では、当時ジョージ・クレバリー氏と一緒にロシアンカーフの買付けを行ったジョン・カネーラ氏の貴重な話が取り上げられています(28分~)。なんでも、ニューアンドリングウッド時代にダラスの顧客からロシアンカーフが見つかったらしいという話を聞いたことがきっかけだったそう。チャールズ皇太子にロシアンカーフの靴を誂えた際のエピソードもほっこりします。

現在、沈没船から引き揚げられた品々はコーンウォールにあるマウント・エッジカム・ハウス(Mount Edgcumbe House)に展示されているそうです。

ジョージクレバリーの「ロシアンハイド」

専用の箱に梱包されます

このロシアンカーフ、ジョージクレバリーでは「ロシアンハイド」と呼ばれています。その理由についてジョージ・グラスゴー氏に質問したところ、従来、ロシアンカーフとはトナカイ(reindeer)の革を指すものと考えられていたが、近年の研究結果によれば、メッタ・カタリーナ号からサルベージされた革がトナカイの革であると特定できず、牛革である可能性も否定できないため、総称としてのハイド(hide=獣革)を使用しているとのことでした。

ギャランティーでも、

Since those first hides were retrieved many hundreds have been brought to the surface. Their size and shape suggest that they come from a variety of bovine animals

と、複数の動物の革が含まれていたことが示唆されています。

なお、ジョージクレバリーでロシアンカーフを使用した靴を誂えた場合、アップチャージは1000ポンド(2019年3月にジョージから聞いた情報なので、値上げされている可能性もあります)。靴に向いているかどうかはさておき、他のエキゾチックレザーよりは安くすみそうです。

ここからは、私がクレバリーの店舗で購入したロシアンカーフ製品を紹介します。ちなみに、ロシアンカーフはクレバリーの店舗か公式通販で購入可能ですが、店舗のほうが総じて品揃えが良く、公式通販に載っていないものもたくさんあります。実際に同じ製品を並べて好みのものを選べるので、店舗での購入がベターでしょう。

また、革小物については、靴などの注文があった際に余った革で作成することが多いとのことなので、色むら、傷など、コンディションについてはある程度のばらつきがあるという前提で考えておいたほうが精神衛生上安心です。別途個別に作成を依頼すれば、より状態の良い部分で作ってくれるかもしれませんね。

革小物①:折り財布

こちらは2019年8月に購入。店舗を訪問した際に、革小物の中で模様の入り方が均一で一番綺麗だったこと、傷が比較的少なかったことから購入を決意しました。ドイツに来てから使い始め、8ヶ月ほど経過しましたが、状態は良好です。

ライニングも綺麗

下は購入当初の写真。大きな変化は見て取れません。

ロシアンハイドは、錆びた鉄のような、あるいはスモーキーな香りがします。購入当初よりは匂いは弱くなりましたが、鼻を近づけるとしっかりと香ります。20~30年前は強烈な薬品臭がしたそうで、今はだいぶん様子が変わってしまったようです。

革小物②:マネークリップ

こちらは2018年9月に購入。イギリスではワンタッチ決済(コンタクトレス)が浸透していたので、カードケースと小銭入れ、マネークリップを使い分けていましたが、ドイツに来てからは使っていません。

色が濃くなっている部分です

鞄の中に入れていたときに、ペットボトルのふたが気づかないうちに開いており、シミができてしまいました。。ロシアンカーフは防水性、防虫性に優れているという特徴があったようですが、さすがに200年後はそうはいかないのかもしれません。

2年近く経過したためか、だいぶん匂いが飛びました。

革小物③:時計バンド

緑のカーフのライニング

こちらは折り財布と同じタイミングの2019年8月に購入。こちらもまだ使っていません。まずはこれにマッチする時計を探さなければ…

ロシアンカーフのケア用品

珍しい革だけにロシアンカーフの手入れについてはどうするか悩みましたが、いつぞやのタイミングに店舗で質問してみると、これを使ってみるといい、と、Orkin of LondonというメーカーのLeather Foodというクリームをくれました。

ネットで検索してみましたが、現在はなくなってしまったのかヒットしません。イギリス製。ラベルに成分が記載されていないので詳細も不明ですが、触り心地はデリケートクリームの類いよりはねっとりしています。

とはいえ、日常的に手で触れる革小物であれば、油分は自然に補給されていくでしょうし、気が向いたときにデリケートクリームなどでお手入れするので十分ではないかという気がしています。

最後に

傍からみればただのぼろぼろの汚い革で、まさに自己満足の極みですが(笑)、そのストーリーと相まって、気分を上げてくれる一品ではないでしょうか。おいおい、ベイカー社が復刻したロシアングレインとの比較もしてみたいと思います。

コメント

  1. まるすけ より:

    kaisei_yaさん、こんにちは!ふくはうち企画ではありがとうございました!

    ロシアンカーフ、私はまだ目にしたことがないのですが、小物にするととても映えますね^^
    個人的には靴よりも小物の方が向いているかなあという印象です。

    時計のバンドなんて最高にかっこいい…緑のライニングもまた絶妙ですね。英国のスミスのビンテージウォッチなんかと合いそうです。今後のエイジングも楽しみですね^^

    別件ですが、私のブログに、kaisei_yaさんのブログのリンクを貼らせていただいてもよろしいでしょうか?

    • 散財夫婦散財夫婦 より:

      まるすけさん、こんにちは!こちらこそふくはうち企画ではありがとうございました
      普通のカーフよりもだいぶん分厚く固めなので、おっしゃるとおり小物のほうが使いやすいと思います。
      スミスのようなアンティークウォッチはたしかに相性が良さそうですね。時計は未開拓なので、じっくり探してみようと思います。

      またリンクの件、ありがとうございます!ぜひぜひよければこちらも貼らせてください。

      • まるすけ より:

        ドイツにお住まいであればユンハンスも、とも思いましたがちょっとスマートすぎるかなあとも思いながら、勝手に私が楽しんでしまいました笑。
        リンクの件、ありがとうございます!早速反映させていただきました。私のほうもよければ貼っていただけると嬉しいです^^今後ともよろしくお願いいたします。

        • 散財夫婦散財夫婦 より:

          ユンハンスですか、たしかに私の中ではクリーンなイメージですが、値段も比較的落ち着いていますし、何よりドイツの品というのは魅力的です!以前、ロシアンカーフの時計ベルトとIWCのパイロットウォッチのコラボアイテムが発売されていて、そういったテイストの組み合わせは間違いなさそうなのですが、しばらく悩んでみます。

          リンクの件、ご紹介までありがとうございます!なにぶん他のブロガーさんのリンクを貼らせていただくのが初めてで、実装に手間取るかもしれないのですが、私のほうでも反映させていただきますね。こちらこそ引き続きよろしくお願いします!

  2. kenzy より:

    はじめまして。いつもブログを楽しみにさせていただいております。
    財布または名刺入れを新調したいと思ったものの希望の形や機能の財布がなかなかないので、
    せっかくだから今のうちにロシアンカーフで作りたい!と思うようになり、ジョージクレバリーに連絡を入れました。
    このご時世でもあるので、ジャーミンストリートには行けずメールでのやり取りでつめています。

    時計のバンドかっこいいですね!ピッタリの素敵な時計が見つかるといいですね。アンティークな時計が上にもコメントがありますが似合うかなと思いました。

    もし可能でしたら、折りたたんだ画像の反対側もアップいただけると幸いです。(実は表面にカードを一枚入れられるようにできるか相談中でしてどんな感じなのか気になりました)
    初めての投稿で不躾なお願いで恐縮ですがよろしくお願いいたします。

    • 散財夫婦散財夫婦 より:

      kenzy様、コメントいただきありがとうございます!お返事が遅くなり失礼しました。
      ロシアンカーフで小物をお作りになられるとのこと、上手く形になるとよいですね。既製品では選択肢は少ないですし、直接オーダーされたほうが結果的には満足いくものができると思います。
      お問い合わせいただいた件ですが、別途お送りした写真をご覧下さい。