World Championships in Shoemakingの優勝者であるパトリック・フライ(Patrick Frei)氏のビスポーク。前回に引き続き、第2部として、ビスポークのサンプルや特徴的な採寸の様子などについて紹介します。
ビスポークサンプル(続き)
まずは店内に展示されているビスポークサンプルの紹介から。
前回紹介したサンプルを含めて、ややロングノーズ気味の流麗なフォルムのものが多い印象。
こちらのシューツリーはアップチャージあり(350ユーロ)。シューツリーというよりはもはや高級家具のようないでたちです。格好いいですが、靴棚に入らなさそうですね(笑)
カジュアルなスタイルや…
奥にはレザースニーカーのサンプルも。
こちらのサンプルは、左が最近のもの、右が初期のもの。トゥの厚みが分かりやすい変化として見てとれます。
こちらはあえて分類するならオスティリティブローグ(穴飾りのないブローグ)になるでしょうか。切り返し部分のデザインがアクセントになっています。
その他のサンプルについては、公式ウェブサイトに豊富な写真付きで紹介されているので、そちらをご覧ください。
ビスポークのライン・価格
ビスポークの主なラインは、Fine ShoesとExtra Fine Shoesの2種類(このほかに、Championshipで優勝した靴が属するDivine Shoesという最高級ラインもあり)。価格は、前者が3300ユーロ、後者が4900ユーロ(3ピース式のシューツリー込み)。Extra Fine Shoesはイギリスの主要なビスポーク靴メーカーとほぼ同価格か多少安い程度ですが、Fine Shoesは日本の主要なビスポーク靴メーカーとほぼ同程度でしょうか。
いずれもフルハンドソーンかつ使用する革のクオリティは同じですが、後者では、外からは見えない部分を含め、さらに手間暇をかけた作業や加工を加えることにより、さらなる完成度を追求しているそうです。
もっとも、Fine Shoesで決して手を抜いているというわけではなく、他のメーカーのビスポーク靴と比較しても遜色なく、むしろそれを超える仕上がりを志向しているとのこと。私はFine Shoesでお願いしました。
シューツリーは、3ピース式が標準仕様。ヒンジ式または上の写真の特別仕様については350ユーロのアップチャージあり。私は3ピース式のシューツリーを持っておらず憧れがあったので、3ピースを選択。
スタイルの決定
手持ちのビスポーク靴はクラシック色が強めなので、色は黒以外で、デザインも違う毛色のものにしようと思っていました。お願いしたいスタイルを事前に固めずに臨みましたが、サンプルを拝見したうえで、型押しとアンティーク調のスムースレザーの切り替えが目を引くこちらのモデルに。
デザインが特徴的なだけに、このままでもよいかなと思う反面、多少の華やかさも欲しいと思い、革の切り替え部分のシームに小さめの穴飾りを沿わせつつ、トゥにメダリオンを加えることにしました(メダリオンの追加は80ユーロのアップチャージ)。このほか、トゥスチールもリクエスト(100ユーロのアップチャージ)。
革については、ベースをダークブラウンにしたうえで、レースステイ周りをどうするか悩みましたが、見せてもらったペッカリーの革の風合いがなかなか良かったので(写真を撮り忘れましたが、デンツのコークよりも濃い目で、タバコスエードくらいの色でした)、仮縫いの際にその革で作ってもらうことにしました。見た目の印象がポップすぎるようであれば、トーンをずらしたスムースレザーでお願いしようかなと思っています。
きめ細やかな採寸
私が今回一番驚いたのが採寸の丁寧さでした。両足で占めて40分程度。他のビスポーク靴メーカーでは多くても15分~20分程度だった記憶なので、私が経験した中では断トツで細かかったです。
まず、座位・立位それぞれで足全体を触診しつつ、足の特徴などの聞き取りがありました。特に、足の裏をしっかり触られたのは初めて。この段階で、痛みが出やすい甲の骨について相談したところ(クレバリーでは、2回伸ばしてもらってようやく丁度良くなった箇所)、タン裏にフェルトを貼ることで対応することに。マーキスの靴でも採用されている仕様です。通常よりも高さのある小指についても、とりわけ慎重に何度も触っているのが印象に残りました。
また、親指がやや内側に入っていることを踏まえて、スムーズな歩行をサポートするため、足裏前方に着脱可能なインソールを追加する旨の提案がありました。整形靴ではよく取り入れられている仕様だそうで、整形靴が発展しているドイツの特色を感じる一コマでした。
次に、フットプリントを採取し、採寸開始です。マフテイでも同様でしたが、土地柄、整形靴的なアプローチも反映されている模様。
座位での測定からスタートしましたが、甲周りだけで少なくとも4~5箇所程度はあったでしょうか。とりわけ、二の甲~三の甲付近から接地面を除いた部分(=外から見える部分)の採寸は初めての経験。アーチの高低を把握するための数値とのことで、確かに理にかなっているように思います。
その後、立位での測定に移行しました。立位と座位での足の変化を見るために、採寸する側の足に一旦全体重をかけ、その後3分の2程度まで緩めるよう指示があり、その上で座位での採寸箇所を改めて採寸していきます。二の甲付近では、一旦メジャーをきつく締めてから、きつすぎない程度まで緩めた数値の採寸も。この箇所は足の構造上、きつめに設計しても痛みが出にくいため攻めることができるものと理解しました。
さらに、ハサミ状の道具を使用した踵周りの採寸や…
2つの小さな板状の道具による指の高さなどの採寸。
加えて、採寸用の補助版を立て、垂直方向での足の形状のチェックも。
最後に、今回採用する仕様を確認して、採寸が終了。
総じて、足全体を徹底的に把握しようというスタンスを感じました。採寸の多さ・少なさが足へのフィット感と必ずしも連動するわけではなく、ほどほどの採寸でもきっちり合わせてくるラストメーカーはもちろん素晴らしい能力を持っていると思いますが、足を知るための手間をかけ、寄り添ってくれるのはお願いする側としては安心できますね。
他のメーカーでの採寸はこんな感じでした。
ラストメーカーデビュー!?
採寸後、奥の作業場を見せていただきました。
手前にはラストを作製するための斧があり、木片でデモンストレーションしてくれました。大きく削るときは斧の付け根側で、小さく削るときは斧の手元側を使うそうです。
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削り体験をさせてもらいましたが、うまく削れず(というか持ち手の向きから違います)。。ラストメーカーへの道のりは果てしなく遠そうです。笑
仮縫いへ
私のドイツ滞在時期の関係で、通常よりも早めの9月頃に仮縫いの機会を設けていただくことになりました。次回はもう少しのんびりフライブルクを楽しみたいと思っています。再訪後、レポートしたいと思います。
仮縫いに行ってきました。詳細はこちらにまとめています。
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