フライブルクのパトリック・フライで革靴をビスポーク①

Patrick Frei

2018年に開催されたWorld Championships in Shoemakingで見事優勝されたパトリック・フライ(Patrick Frei)氏。今回、ドイツ・フライブルクの工房にお伺いして革靴のビスポークをお願いしてきました。今回は第1部として、工房の概要やスタイルなどについて紹介します。

パトリック・フライ氏(Patrick Frei Maßschuhe)

まずはパトリックさんのご紹介から。パトリックさんは湖が綺麗なリゾート地として有名なドイツ南西部のコンスタンツご出身。ジャグリングのパフォーマーとして世界を数年渡り歩くなかで、ボリビアで出会ったスーツケース職人のもとでスーツケース作りを学ぶ中でレザークラフトの面白さに目覚めたそう。ドイツに帰国後、ドイツの靴職人のもとで数年修行し、2008年頃に独立。2019年からは、ビスポーク靴職人の木村和哉さんを迎え入れ、共同でビスポーク靴の制作を行っています。

お二人と

パトリックさんが一躍有名となったきっかけは、2018年にロンドンで開催されたWorld Championships in Shoemakingでの優勝。その後、伊勢丹での靴の展示で実物を直接ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。木村さんも、伊勢丹でパトリックさんに会いお誘いを受けたことを契機として、一緒に働くことになったそうです。

だし縫いのピッチの細かいこと

こちらがその靴。靴はもちろんのこと、シューツリーまで圧倒的に美しかったです。シューツリーは、ヴァイオリン職人との共同作成。繊細なスティッチング、ソールの装飾、ヒールの積み上げなど、まさに芸術作品。靴の制作に合計約160時間、さらにシューツリーの制作に合計40時間を費やしたという大作です。

私自身、靴を見るのに夢中になり他のアングルでの写真を撮り忘れるという失態(笑)World Championships in Shoemakingの主催者であるイェスペル・インゲヴァルソン氏が運営されているブログに写真付きでたっぷり紹介されているので、こちらをご覧ください。

Picture special - World champion shoe - Shoegazing.com
The first world champion in shoemaking was appointed this weekend, with Patrick Frei from Germany winning the title, ahead of Daniel Wegan in 2nd and Philippe A...

パトリックさんのウェブサイトはさながら美術館のようで必見です。日本語にも対応しています。

Freischuhe - Schuhe nach Maß
Patrick Frei stellt in seiner Freiburger Werkstatt in reiner Handarbeit feine Maßschuhe her. Mit dem Kunden entworfen und nach dem Abbild seiner Füße erschaffen...

こちらの動画では、パトリックさんが制作された上の靴と、パトリックさんのバックグラウンドに関するインタビューが収録されています(英語)。

Interview with World Champion in Shoe Making | Patrick Frei Maßschuhe
Interview with World Champion in Shoe Making | Patrick Frei Backstory

概要

Patrick Frei Maßschuhe

営業時間:9時~13時(月~金)※午後・土曜日は要予約

工房はフライブルク駅からトラム(1番線~4番線)で1駅、そこから徒歩6分程度。アンティーク家具、自転車、鞄など、職人工房の集合エリアであるシュテリューリンガー・ゲヴェルベホーフの一角にお店を構えています。

日本~フライブルク間の直行便はないので、日本からは、フランクフルトまで空路で移動し、そこからICEなどの長距離列車を利用(2時間強)する形になると思います。

旧市街のフライブルク大聖堂

フライブルクは、ドイツの環境都市として有名で、ドイツ人から「ドイツで一番住みたい都市」に選ばれたこともある人気の都市です。天気が良ければ黒い森(Schwartzwald)も臨めます。特に旧市街は昔ながらの雰囲気を感じられる素敵なエリアで、キリスト教界で最も美しい塔を擁すると評されるフライブルク大聖堂もあります。個人的にはシュトゥットガルトよりも好みでした(シュトゥットガルトは戦後にほとんどの街を再建したこともあり、残念ながら歴史を感じられるエリアがやや少ないです)。

工房訪問のきっかけ

私がパトリックさんについて初めて伺ったのは、2019年にロンドンで開催されたWorld Championships in Shoemakingを覗いたときに(Y’s shoeshineの杉村さんがWorld Championships in Shoeshiningで優勝された大会です)、友人から、当時審査員として参加されていたパトリックさんが前年の優勝者と聞いたことがきっかけです。当時は、整ったひげをお持ちだなぁ…という印象でしたが(笑)、その場では話す機会はなし。

その後、木村さんがパトリックさんの工房に参画されるとのインスタグラムの投稿を拝見し、私の住むシュトゥットガルトと比較的近くにあることから、思い切って木村さんに連絡差し上げたところ、快く訪問に応じてくださいました。

工房の全景

当日は生憎の雨模様でしたが、フライブルク市内を軽く観光した後、無事工房に到着。お二方が出迎えてくださいました。

こちらが中の様子。左手には革のストックとずらっと並んだ工具が。窓のつくりがお洒落ですね。

右手にはビスポークのサンプルの展示や採寸のためのスペースが設けられています。さらに奥の部屋には作業用のスペースがありますが、これは別記事で紹介します。

ハウススタイル

古き良き伝統へのリスペクト

年季の入った本がたくさん

パトリックさんのスタイルは、公式ウェブサイトに記載されているとおり「今や失われかけた古典的な靴作りの知恵を生かした靴作り」。パトリックさんは、特に19世紀~20世紀初頭のイギリス・ドイツの手製靴に関する資料を読み解き、それと現代の靴作りの方法とをミックスすることを志向されています。実際、パトリックさんが、ジョンロブなど他のビスポーク靴メーカーを訪問したときに、靴の作り方について説明すると、各地の職人から「うちでも昔その方法で作っていたけど、いったいどこで学んだのか?」と驚かれることもあったそうです。

今でこそ、日本でドイツ靴といえば、(厳密にはブダペストスタイルですが)ハインリッヒ・ディンケラッカーのようにサイドがストンと落ちたフォルムが思い浮かぶ方も少なくないと思いますが、当時の資料によれば、むしろドイツの主流なスタイルは当時の英国靴にも通じるスマートなものだった模様。ビスポークのサンプルにもそれが現れています。

素材へのこだわり

革や素材にもこだわられており、ヨーロッパ各地のネットワークを活かして革を仕入れているとのこと。特に、ワインハイマーについては、前身のカールフロイデンベルク社が工房と同じバーデン=ビュルテンベルク州にあったことから、特に良いグレードのものを仕入れることができるそうです。

また、詳細は控えますが、一例として、革を美しく保つための伝統的な加工を取り入れているそうです。加工前と加工後のものを見せてもらいましたが、確かに革がしなやかになっているように感じました。

3点の非対称ラスト

ラストについては、3つの観点からasymmetricな設計としていると説明していただきました。私の理解では、以下の点が特徴です。

①ラスト全体のねじれ
②内振りのラスト
③トゥの先端部分の形状

1点目は、ビスポーク靴はもちろん、アンソニークレバリーなど一部の既製靴でも見られる特徴ですが、足の形状・体重移動を踏まえたものだと理解しています。下の写真からもねじれは明らかです。

左がビスポークサンプル

2点目はパトリックさんが「バナナラスト」と評していましたが、上またはソールを見ると、インサイドストレート気味の作りになっています(右はクレバリーのビスポーク)。この形状はドイツで盛んな整形靴でも取り入れられているもの。「バナナラスト」と聞いてエドワードマイヤーのペドゥフォームを連想しましたが、前方にゆとりを持たせる設計ではないので、完全に同じではないと思います。

閂止めがレースステイの途中で縫われているクラシックな仕様。個人的には、6アイレットと5アイレットとで受ける印象が大分異なることに驚きました。何度見ても、前からみるとねじれているのに上から見ると破綻なくまとまっているのは不思議です。

3点目は、靴を正面から見ると、トゥの小指側が緩やかに落ちているのが見てとれます(3枚上の写真から伝わるでしょうか)。これもまた、足の靴内部での指の動きを踏まえたものと理解しています。

ビスポークサンプル

長くなってしまったのでここでは1足だけ。

3月のアムステルダムでのトランクショー向けに作成したというサンプルです。上級ラインのExtra Fine Shoesに当たります。

英国ビスポーク靴のような印象を受けましたが、ディテールへのこだわりが伝わる綺麗な靴です。

個人的に気に入ったのは、アンティーク家具のように積み上げ、磨かれたヒールの仕上げ(通常の仕上げも選べるとのこと)。シューツリーと色味を合わせている点がまた素敵です。

飾り釘も実用性のみならず、見て楽しめます。

他のサンプルや工房での採寸の様子については、別記事で紹介します。

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