先日、ローマで注文靴店ペルティコーネ(Perticone)を営む日本人の吉本晴一さんの工房に伺い、ローファーを注文しました。この記事ではその概要、革靴のビスポークサンプルや採寸の様子を紹介します。
ペルティコーネとは
ペルティコーネ(Perticone)は、吉本晴一さんが2017年に立ち上げられた注文靴店です。吉本さんは、一般企業での勤務を経て単身イタリアに渡り、マリーニ、メルクーリオをはじめ、ローマ、フィレンツェなどの名だたる靴屋で手製靴製作の経験を積まれた後、ローマにご自身の工房を構えられました。
ローマ転勤が決まってから、記念にイタリアでも一足靴を注文しようか考えていたのですが、元々イギリス靴に好みが偏っているからか、マリーニのようなコテコテのイタリア靴をお願いする気にはなれず…そんななか、吉本さんの工房について触れる機会がありました(オーダーの様子をまとめられたnot_fashion_but_style様のブログも参考にさせていただきました)。ジョージクレバリーのアウトワーカーとしてのご経験も豊富ということもあってか、どこかイギリス靴らしさも感じさせるデザインに魅かれ、今回製作を依頼することに。
実は昨年11月に家探しのためローマに滞在する予定があり、その際にお伺いするつもりだったのですが、コロナの影響で飛行機が飛ばず断念。このタイミングとなりました。
ビスポークの価格は2700ユーロ~(2021年1月現在。仮縫いあり、シューツリー込)。革によりアップチャージあり。私がお願いしたイルチアのラディカカーフ(ミュージアムカーフ)は+150ユーロでした。
工房の様子
工房内部はこちら。
天井の大窓から自然光が差し込んでくる心地よい空間でした。
ビスポークサンプル
現地で買い付けられたというヴィンテージのトランクにずらっと並べられたビスポーク向けの革靴のサンプル。イタリアでは状態のよい年代物のトランクがお値打ちな値段で手に入りやすいそうです。
サンプルの一部。イタリアらしいダービーから…
英国靴の雰囲気をまとったサンプルも。
こちらは羽根のステッチが特徴的ですね。
こちらは革の継ぎ目がサイドに!しかもスキンステッチです。
これはラマ革のローファー。
私も以前誤解していましたが、動物のラマの革ではなく、シュリンク加工を施したカーフの一種です。実際に触らせていただいたところ、かなり柔らかい印象を受けました。固めの革が好きな方には向かないかもしれません。
昔作成されたというサンプル。コバの張り出しがほとんどなく、エレガントですね…!
スタイルの検討
ローファー好きのイタリア人のリクエストも踏まえ、ペルティコーネでは一足目からローファーの注文OKとのこと。仕事用の靴は飽和状態なので、こちらのバタフライローファーをお願いしました。
バタフライローファーといえば、New&Lingwoodのそれが有名かと思いますが(去年ジャーミンストリートに寄ったときも、ディスプレイに飾ってありました)、こちらは穴飾りがなくすっきりした印象。
こちらの投稿(4枚目)のとおり、ヴァンプ部分がヒールを経由してぐるっと1枚の革でつながっているのがオリジナリティが感じられます。
革の選定
せっかくのイタリアということでラマ革もありかなと思いましたが、吉本さんから「ミュージアムカーフはご興味ないですか?」とご提案を受け、見せていただくと…
美しいムラ感にすっかり心奪われました。笑 イルチアのラディカカーフですが、品質にばらつきがあり、最近は良い革を手に入れるのが一苦労だそう。
バーガンディー(上の写真の真ん中のサンプル)、ブラッケン(右)、スティール(2枚上左)で悩みましたが、ミュージアムカーフの靴はロブパリの黒(ジョッパーブーツとチェルシーブーツ)しか持っていないことを踏まえて、鮮やかなブラッケンを選択。人気の色だそうです。
ライニングはこちらに(色は違います)。
子羊の革で、イタリアでは一般的とのこと。柔らかい質感でした。
採寸
立位、座位、踵の形状の採寸に加えて、フットプリントの採取と、合計で30分程度、子細なチェックが行われました。私が経験したなかでは、パトリックフライさんに次いで丁寧な採寸。採寸個所の正確な把握のため、テープやシールも活用されていました。
興味深かったのが、踵の形状のチェック。
写真の器具を押し当て、踵の傾斜具合を記されていました。
私は踵に比して踵上部が細めだそうで、踵を絞りつつ、踝が履き口上部に当たらないようなバランスが実現できるよう、仮縫い時に重点的にチェックすることに。
その他、ソールの仕様などは仮縫い時に詰めることにして、この日は終了しました。仮縫いは5月~6月を予定しています。
幻の靴!?ガットとご対面
一段落したあと、見せていただいたのがこちらのガットの靴。
生で見るのは初めてです。オーナーさんが高齢化に伴って手放すこともあるそうで、状態にこだわらなければ、今後も手に入れるチャンスはあるのかもしれません。
最後に
実は帰りのタクシーで妻がクニルプスの折り畳み傘を忘れてしまったのですが、吉本さんご夫妻がご親切に各所に連絡してくだったおかげで、無事手元に戻ってきました。ご迷惑をおかけし申し訳ない限りですが、お二方の優しさに救われた一日でした。また、ローマに引っ越してから初めて日本人の方とお会いした機会でもあり、楽しい時間でした。春過ぎにはイタリアの状況がより良くなっていることを願いながら、次のアポイントメントを楽しみに待ちたいと思います。