元フォスターアンドサンの工房長、イギリスのビスポークシューズ制作の日本人第一人者である松田笑子さん。2020年にご自身のブランドを立ち上げられたことを受け、7月末にロンドンでオーダーしてきました。この記事では、ブランドの概要やサンプル、採寸の様子を紹介します。
作り手・松田笑子さん
松田笑子さんは、イギリスのビスポークシューメーカー、フォスターアンドサンでかの著名な靴職人であるテリー・ムーア氏から師事を受け、そのキャリアはなんと20年以上。短期間イギリスのビスポークシューメーカーで勤務されたことのある日本人の職人の方は少なくないと思いますが、松田さんほど長きにわたりイギリスの靴作りの第一線で経験を積まれた方はおそらくいらっしゃらないでしょう。
2019年にフォスターアンドサンを退職され、2020年4月から、ご自身のブランドEmiko Matsudaを立ち上げ、再始動されました。
ご自身でデザインされたというブランドロゴ。ロイヤルワラントに似た雰囲気で、ロンドンらしさを感じる素敵なデザインです。
2015年にV&Aミュージアムで開催されたThe art of shoemakingという企画展の際に公開された動画では、フォスター時代の松田さんによるビスポークシューズの制作の様子が紹介されています(行きたかった…)
弾丸でロンドンへ
立ち上げ後、今か今かと機会を伺っていましたが、コロナウイルスの影響でなかなかイギリス行きが実現せず…7月上旬にイギリスが海外からの入国者に対する2週間の隔離措置を解除したことを受けて、7月末に2泊3日の弾丸でロンドンへ。松田さんのご自宅兼工房がロンドン郊外にあるとのことで、ありがたいことに松田さんに私の滞在先のホテルまでお越しいただけました。
ビスポークサンプル
ご挨拶後、早速サンプルを拝見。普段はアシスタントの方とお二人でいらっしゃるそうですが、現在の状況に鑑みてお一人でいらした関係で、事前にお願いした2スタイルを見せていただきました。
こちらはワインハイマーのDDトップグレードを使用したパンチトキャップトゥ。
このスタイルはキャップの大きさや全体のラインの取り方でかなり印象が変わってくると思っていますが、どことなく丸みを帯びたどっしりしたフォルムに程よい大きさのキャップ、穴飾りがフィットしており、見とれてしまうほど。
こちらはピークトキャップトゥ。上のサンプルとは一転、ソフトチゼルも相まって、シャープないでたち。
キャップ、フェイシング、ヒールカウンターが嘴の先端のように尖った形状で、華やかな印象です。20世紀中ごろまで営業していたロンドンのビスポークシューメーカーであるPeal&Co.(テリー・ムーア氏がキャリアをスタートした場所としても知られています)では、このような意匠があしらわれたブローグシューズをP Brogue(P=peak(先端))と呼んでいたとか。
どの角度から見ても完成された美しさ。最近ネットフリックスでジョジョの1・2部が見られるようになっており久しぶりに見ているのですが、バックからゴゴゴ…という音が聞こえてくる気がしました(笑)
採寸
採寸はまず立位で、その後座位で行われました。直近で経験したパトリックフライさんの工房ではかなり細かくデータを取っていましたが、採寸箇所でいえばオーソドックスな範疇に入るかと思います(なお、ジョージクレバリーでの採寸の様子はこちらで紹介しています)。
小指や甲の骨など気になる箇所に関するコミュニケーションをしながら、出来上がった採寸シートがこちら。
一点初めての経験だったのが、一通り採寸を終えたあとに、足の状態の確認のため、靴下を脱いだ状態で足の状態を見たうえで、写真を撮られたこと。小指に問題を抱えることが多く、また、立っている状態で足の指に少し力が入っているなど、典型的な日本人の足、という総評をいただきました(笑)
詳細の決定
インスタで投稿を拝見して以来、サンプルのピークトキャップトゥそのままでお願いしようと決めていたので、それ以外のディテールの決定へ。
クレバリーで2足黒靴を誂えていることもあり、黒以外の色で仕事用に、ということで、色々見せていただいた結果、デュプイのプラムヴィンテージカーフにしました。色味は、プラムというよりはダークブラウンよりかなという印象。
ライニングはせっかくのビスポークなので、少し遊びを入れてレーシンググリーンを選択。
Luluのスチールのストックがあるそうで、そちらの装着もお願いしました。
料金・仕様など
料金は4000ポンド(シューツリー込み)。自営業の形式を採られているため、VATリファンドの適用はなし。ロンドンのビスポークシューメーカーのなかでは比較的手の届きやすい価格といえるでしょうか(ご参考までに、クレバリーは3800ポンド。以前問い合わせた時点では、フォスターは5000ポンド、ロブロンドンは5000ポンド超え)。
採寸、仮縫いを経て、仮縫い時に大きな問題がなければその後納品。仮縫いについては、イギリスの多くのビスポークシューメーカーと異なり、モックアップを用意するとのことで(2足目以降はスタイルにより要相談)、お願いする側としてはありがたいですね。
納期は時期によるかと思いますが、現時点では半年~とのこと。ヨーロッパにいるうちに受け取れればベストだと思っていたので、個人的には助かります。
シューツリーはヒンジ式のほか、3ピース式も選択可。ヒンジ式については、写真のスタイルのほか、下のニコラス・テンプルマン氏の投稿で紹介されているような、親指で抜くことができるような仕様も選べるそうです。
仮縫いは10月
そうこうして、あっという間に時間が過ぎこの日は終了。10月頭にビザの関係でロンドンを再訪する予定があり、そのタイミングに合わせてモックアップを仕上げていただけることになりました。期待で胸が高鳴ります…!!仮縫い後、続報をレポートしたいと思います。
仮縫いに行ってきました!詳細はこちらにまとめています。
2020年11月に発売されたLastで松田さん特集が組まれています。トータル5ページで読み応えありです。
コメント
kaisei_yaさん、アップありがとうございます!
私はパンチドキャップの方をお願いしておいてもらえますでしょうか、と言いたくなるくらい、松田さんの靴は美しい靴ですね。Youtubeの動画は私も大好きで何度も拝見しています^^
ビスポークで半年は嬉しいですね、見ているこちらも早く見られるのは楽しみです、続報お待ちしております!いや〜羨ましい^^
まるすけさん、コメントありがとうございます!
実はパンチトキャップは持っていないので、将来の課題です(笑)
今後日本・イギリスでトランクショーが開催された場合には納期はもう少し延びるでしょうから、そういった意味ではラッキーでした。僕も来年が待ち遠しいです!